人事部長の直談判
我々経由でA社に入社した三人の営業職の人たちから、時を同じくして悩みを打ち明けられた。「どうも、社長とうまくコミュニケーションできないんですよ。何だか自信を失ってしまって……」最初にこの話を聞いたときは、てっきり英語の問題かと思ったが、実際はそうではなかった。X氏の日本語の問題なのである。自らマネジメントをしたがるX氏は、昔日本に住んでいたこともあって、片言の日本語を話す。ただ、あくまで片言なので、微妙なニュアンスまでを伝えきることはできない。
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しかし、X氏は自分の日本語能力にそこそこの自信を持っており、片言のままに部下を叱咤激励する。そうなると、どうしても表現がストレートかつ不適切なものとなる。「アナタ、バカデスネ」「アナタ、ノウリョクナイデスネ」「アナタ、ヤメマスカ?」あまりにも直接的な言葉であると同時に、なぜか敬語である。言われた方は、社長の日本語能力を差っぴいて考えても、気持ちのいいものではない。まさに「ばかにされた」ような気がしてくるのと同時に、「本当に自分には能力がないのかもしれない」という気持ちになってしまうようなのである。だからといってA社を辞めます、という話ではないのだが、我々はそれとなくA社の人事責任者に社長とのコミュニケーションロスの話をしてみることにした。すると、察していたのか人事責任者は苦笑しながらこう言った。「やっぱり、そうですか………営業だけじゃなくって他のセクションからも同じような話を聞いていたんですよ。新任社長でしかも本社からの派遣ということもあって遠慮してたんですが……こうなったら直談判しますよ」それから数日後、A社の人事部長から我々に新たな求人依頼が入った。職種は「社長秘書」。営業現場と社長とをつなぐ通訳としての仕事がメインになるらしい。「英語力もさることながら、日本語のニュアンスもきっちり伝えられる人を紹介してくださいよ」人事部長は笑いながら言った。どうやら、直談判はうまくいったようである。
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