昇格試験の内容
年二回、一定の年次に至った従業員を対象に試験を実施し、合格すれば昇進・昇格、不合格であれば、次の試験まで待たねばならないという制度である。確かにわかりやすい指標ではあるものの、必ずしも仕事の成果と一致する考課ではないので、Tさんにとっては無意味以外の何ものでもなかった。それでも、中途入社したばかりのTさんとしては、異を唱えるのもためらわれたので、最初の試験くらいは受けておくか、と考えるに至った。しかし、やはり仕事と関係のない試験で人事考課を実施するには無理がある。
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A社にとってははじめての試みだったという背景はあるものの、かなり内部では混乱したらしい。象徴的なのは、試験が近くなった頃の社員の動きである。誰も彼もが仕事そっちのけ。営業職の面々は営業に出ると見せかけて内職しているようだし、エンジニアもパソコンに向かっていると見せかけて試験傾向を分析している。Tさんは、と言えば、仕事でもないのにそんなことをするのはアホらしい、と頭から否定していたので、周囲に試験問題とはどんなのが出るのか、その傾向と対策は、などと詮索することを、一切放棄していた。そして何も準備しないまま、試験当日を迎えたのである。「どうせ、一般時事問題や簡単な語学なんかだろう。新聞は毎朝読んでるし、Eメールでの簡単な英語だったら読み書きもできる。なにも心配することなんかないさ……」こんな風に思いつつ、さりとて若干の緊張感ももちつつ試験に臨んだTさん、試験問題を開いて驚いた。一問目はこんな問題だった。『A社○×社長の生年月日及び出生地を述べよ』以下、問題は社長の話、社史の話等々、仕事とはまったく関係のない会社内部の話ばかりだった。Tさんはその昔、中国共産党の紅衛兵達が毛沢束語録を熱心に学んでいたのを思い出した。「私は仕事上のプロにはなりたいと思ってますけど、別にA社のプロになろうとは思ってないんですよ」Tさんが我々のもとを訪れたのは、それから一週間後のことである。
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